CREATIVE IN FOCUS

クリエイティブ・イン・フォーカス

すべてのメディアで見るビジュアルは、どれも私たちの世界に対する理解を示しています。
毎年ゲッティイメージズのクリエイティブチームは、世界中のメディア、
ポップカルチャー、広告、アート、そしてgettyimages上で
検索・ダウンロードされたデータを下に、今年のビジュアルトレンドを予測し、
CREATIVE IN FOCUS』というタイトルで発表しています。

VIRTUALITY

バーチャリティは美しさの基準を変えたのではなく、美の味わい方を広げました。
写真をただ見るのではなく、その中に入るという新たな写真体験を生み出したのです。

ローレン・カッテン

シニア・アートディレクター

“テクノロジーは、無限に世界のサイズを広げています。
デジタル技術によって、その場にいながら
どこへでも行くことができます”

Special Interview

とんだ林 蘭

“新たな視点が新たな物語を生み始めた”

若林恵

編集者

 20世紀は「映像の世紀」と呼ばれたように、テレビ、雑誌が影響力を持った時代でした。映像や写真が力を持った理由に、人々に「物事の本質は表層に宿る」という共通認識があったことが考えられます。つまり映像や写真が被写体の本質を映しているという共通認識があったからこそ、フォトジャーナリズムもグラフビジュアル誌も成り立っていたのです。それがテクノロジーが広く浸透し、さまざまな新しい価値が生まれたことにより、今や写真を撮ることでは、本質を切り取れなくなってきているのです。 本質は目に見えない時代、プロトコルが変わっていく時代に突入したのだと思います。

 それは広告も同じで、従来の広告の在り方が機能しなくなっています。また、これはメディアに限った話ではなく、いままで当たり前のものとして受け入れられてきた「国家」や「会社」というものについても、コンセンサスが壊れていく時代に差しかかっているのだと思います。こうした拠り所がない時代に、このようなトレンドをまとめたものがあることは、刺激になりますよね。こういったものがあるからこそ、そのカウンターとして、次のオルタナティブが生まれるのではと期待しています。

 トレンドの一つ「VIRTUALITY」は、SNSの普及や、カメラなどのイノベーションで得た新しい視点ですよね。新たな視点で作られた新しいビジュアルが、新しい物語を生むことを期待しています。イノベーションっていうものは「領域の拡張」だと思っていて、今まで開拓されていない新しい領域を発見し、「こういうもの」とされていた枠を拡げて、さらにそれを誰かが拡張して、あっちに広がり、こっちに広がりながら、ある領域が広く、深く、かつ豊かになっていくことこそが大事だと考えています。

若林恵
『WIRED』日本版 編集長。1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、出版社平凡社に入社。『月刊太陽』の編集部スタッフとして、日本の伝統文化から料理、建築、デザイン、文学などカルチャー全般にかかわる記事の編集に携わる。2000年にフリー編集者として独立。2011年より現職。

COLOR SURGE

目まぐるしく変化する世の中で、消費者は普通に対してうんざりしており、
通常とは違った色のコンビネーションを使ったキャンペーンが、人々に関心と興奮を呼び起こします。
それは、圧倒的に美しいものであるか、この上ないほど醜いものであるかを問いません。
色を巧みに使った力強さが、関心をもたらすのです。

クラウディア・マークス

シニア・アートディレクター

“色は写真を構成する一要素ではありません。
もはや写真そのものを表す要素です”

Special Interview

とんだ林 蘭

“毒みたいな表現に良い反応がある
カワイイの意味が広がっている気がしますね”

とんだ林 蘭

アーティスト

 ビジュアルのトレンドを意識したことがなかったので、こうして紹介してもらえると、新鮮かつ、その視点には学ぶことが多いのですが、その反面、自分の表現は、ここから意地でもずらしたいと思うのが天邪鬼な私の正直な感想です。

 トレンドにある「NEW NAIVETY」の表す、ゆるさや遊び心は、私の表現と近いものを感じました。そして「COLOUR SURGE」は、私の特徴でもある色の使い方に共感します。色は私が表現する上で、強い武器だと思っており、ここが製作作業でもギリギリまで悩むところです。今ほどビジュアルが世の中に溢れている時代はないと思っていて、普通の人もカラーに対するセンスがとても高い時代だと思います。そんな中で作品が埋没しないためにも、私らしさとは何かを常に考えていて、最後に全体のバランスや違和感を感じられるかを含めてカラーを決めています。ただカワイイや面白いビジュアルだけでなく、日常に潜む毒みたいなものを感じられる作品にも良い反応があるので、カワイイの意味が広がっている気がしますね。

色をぶつけて違和感を作りたい

 作品にテーマとかは全くありません。その時思いついたことを、そのままビジュアルにして残しているだけです。溜め込むよりもすぐに出したい私にはすぐに発表できて、反応がわかるInstagramがとても合っています。誰もがアーティストにもなろうともしてなくて、ただ表現している気がInstagramから感じます。何かを作り出したいというのは人間の本能なのかもしれません。

 街を歩く人や、友人たちの服装からインスピレーションを得ることが多いですね。そこで感じたトレンドに、どう自分なりの違和感を入れていくのかを日々妄想しています。日常を少しだけずらすような非日常的なワクワクするアイディアを考えることが、創作の鍵になっています。

とんだ林蘭|TONDABAYASHI RAN
1987年生まれ、東京を拠点に活動。コラージュ、イラスト、ぺインティング、立体、映像など、幅広い手法を用いて作品を制作する。猟奇的でいて可愛らしく、刺激的な表現を得意とし、名付け親である池田貴史(レキシ)をはじめ、幅広い世代の様々な分野から支持を得ている。木村カエラ、東京スカパラダイスオーケストラなどの音楽アーティストや、MIHARAYASUHIROなどのファッションブランドへも作品提供を行うなど、精力的に活動の場を広げている。
http://tondabayashiran.com

UNFILTERED

大胆なドキュメンタリースタイルのビジュアルは、広く受け入れられています。
アンフィルタードは、ダイナミックで過激とも呼べるようなストーリーテリングの手法を実現。
不必要なノイズを減らし、消費者に気づきを引き起こしました。
他と異なることを怖れず、徹底した透明性を持つ情熱的なブランドは、
特にジェネレーションZやミレニアル世代の消費者に共感されます。

ゲンマ・フレッチャー

シニア・アートディレクター

“挑戦しているブランドは、フォトジャーナリズムの本物志向を
取り入れることで、若い消費者とつながり、
ありのままで自発的な強さを備えたストーリーテリングを行います”

Special Interview

田附 勝

“写真が言語になりうる時代”

田附 勝

写真家

 写真として個人的に興味があるのは、アンフィルタード。バーチャリティも面白いと思う。自撮りとかセルフィーとかって近年の話でしょ。より人が行けなかったとこや、見られなかったことが可能になったし、写真家ではなくても、そういうことができるから関心がある。テクノロジーの発達と個人の欲望が大きくなって生まれたことでもあると思う。デジタルカメラでフィルムっぽく撮ることも可能になったし、それが一般的に普及してきたことによって、例えば写真家が入りづらいコミュニティを撮ることも重要なんだけど、そのコミュニティにいた人が写真家に成り代わって、撮ることが可能になれば、その手法を使ってこういうこともできるから。そこは共感というか、90年代と今では大きな違いがあると思う。以前は技術や写真に関心を持たないと撮れなかった。厳密にはコンパクトカメラがあるけど、そこから抜け出す方法は、一眼レフのフォルムカメラが扱えないと、より自分が主張する写真を撮ろうとはなり得なかった。でも、今だとデジタルカメラは、フィルムを現像してプリントして色々試す時間が省かれて、ものすごく速くなったでしょ。おかげで技術的なことは無視されて、没入できるようになってきたから、よりコミュニケーションに介入することや、自分の立ち位置、どの場所にいるかによって、ある意味アマチュア写真家でも、次の日から写真家に成り代わることだってできる。それは否定しないし、むしろそうなっていく方が面白い。速い時代だから強い写真に執着する。写真の仕方と戦い続けたいと思っている。

 「それと、ある意味、写真というのが共通言語になってきていて、言葉を介さなくても世界中で通じるし、革命が起きることだってある。写真が言語になりうる時代だから、言葉を持たなくなる。言葉は情報であるから、感情とは違う位置にあるので、人の心を震わせる写真とは違うと思うけど。どこまでも、情報が入らずに、膨らませるかだよね。

田附勝(たつき まさる)
デコトラから猟師や漁師まで、日本の土着的なものや人を追い続ける写真家。2011年「東北」で第37 回木村伊兵衛写真賞を受賞。友人とsuper books(http://superbooks.jp)というレーベルを運営している。

GRITTY WOMAN

新しいタイプの女性が登場しています。慣例や壁を打ち壊すその女性は、
タフで粘り強く、真っ直ぐで、基本をおろそかにせず嫌なことからも目をそらしません。
そのため、人から妨げられたり、見下されたり、過小評価されることはありません。
一人のファイターであり、フェミニストであり、奇才なのです。
グリティ・ウーマンと呼ばれる新しいトレンドは、自分がどのように見えるかよりも、
自分が何をすべきかを考えています。

パム・グロスマン

ビジュアルトレンド・ディレクター

“男女間の役割や関係に関する議論が活発化するにつれて、
議論を見直すような新しいタイプの女性が登場しています”

Special Interview

湯山 玲子

“時代のインサイト
つまりある種の欲望を赤裸々に感じました”

湯山 玲子

著述家、ディレクター

 視覚偏重の時代が訪れたのだと思います。SNSなどで写真が氾濫し、 一般の方の写真リテラシーとセンスは確実に上がりました。良い / 悪い / 好き / 嫌いの判断を処理する時間も早くなりました。つまり写真をじっくり見て、味わうこと、意図や意味を感じること、読み解く時間や力無くなってきているのです。これは昔なら勉強して、やっとその入り口に立てるかどうかという教養的な楽しみであった写真や映像が、ネットのおかげで気楽に、古今東西、膨大なビジュアルアーカイヴにアクセスできることの功と罪といえるでしょう。広告する側からはかなり手強い時代になりました。写真は美術館にあるようなアートピースか、instagramになってしまい、その間にある広告的な写真に付き合っている時間や、その写真が表すコンテキストを理解して楽しむというのは、一部の成熟した人のみの嗜みになるかもしれません。

 「VIRTUALITY」は、映像の開拓時代ともいえる、見たことがない景色を、それまでの冒険のように自分で行くことなく、GO PROをつけた誰かの視点を、自分の視点として追体験できる時代が生んだものだと思います。

 「GRITTY WOMAN」というトレンドからは、シングルマザーの痛み。今のレズビアンカルチャー。男に期待しない、頼らない女性の強さ。未婚率の高さ。傷から立ち上がる戦う女性など、時代のインサイト、つまりある種の欲望を赤裸々に感じました。ここで描かれているような強い女性の姿がいよいよ広告に登場する時代が来たのかと感慨深いですね。広告において、女性の扱い方が大きく変わる時期かもしれません。

 このような流れを踏まえて、いま一度、ビジュアルコミュニケーションを考えてみるのも興味深いですね。

湯山玲子(ゆやま れいこ)
著述家、ディレクター。出版、広告の分野でクリエイティブ・ディレクター、プランナー、プロデューサーとして活動。同時に評論、エッセイストとしても著作活動を行っており、特に女性誌等のメディアにおいては、コメンテーターとしての登場多数。現場主義をモットーに、クラブカルチャー、映画、音楽、食、ファッション等、文化全般を独特の筆致で横断するテキストにファンが多い。20代の『AneCan』から、50代の『HERS』まで、全世代の女性誌にコラム連載やコメントを多く発表。主な著作に『女ひとり寿司』(幻冬舎文庫)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、『女装する女』(新潮新書)、『四十路越え!』(ワニブックス)、『ビッチの触り方』(ワニブックス)、上野千鶴子との対談『快楽上等! 3.11以降を生きる』(幻冬舎)、『ベルばら手帖』(マガジンハウス)。月一回のペースで、爆音でクラシックを聴く「爆クラ」イベントを開催中。(有)ホウ71取締役。日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。

GLOBAL
NEIGHBORHOOD

ソーシャル上でつながりが増え、(バーチャルに)ボーダレスな世界では、
出身地はもはや人格的に意味を持ちません。
文化的なアイデンティティが、より複雑で不定形なものになっているからです。
グローバル・ネイバーフッドとは、こうした流動性を取り込んだ社会を意味します。
集団の文化的アイデンティティが、私達がどこにいるかよりも
何を信じるかによって形作られることが増えてきたため、このトレンドが生まれました。

ガイ・メリル

アートディレクター

“人や情報の移動、商品の流通の世界的な増加は、
社会に変革を引き起こします。
そして、私達の自己認識さえも変化させる可能性を持っています”

Special Interview

ルーカスBB

“違う文化をもった人が
同じ空の下で生きていることはとても面白い”

ルーカス B.B.

クリエイティブディレクター
編集人ー

 小学生の時から、ずっと学校の雑誌や新聞を作っていました。インタビューして、記事を考えて、レイアウトも決めて。凄く楽しかったのを覚えています。カリフォルニア州から賞をもらったこともありますよ。

 『PAPERSKY』という雑誌は地上で読む機内誌」をコンセプトに、“この場所でこのカルチャーが生まれたのはなぜか”“その背景には、どんな生活があるのか”を軸に、面白い人やモノ、文化や場所を紹介することで、多くの人と良いものをシェアしたり、誰かをインスパイアしたりできるのではという気持ちで作っています。

 「GLOBAL NEIGHBORHOOD」というトレンドは、グローバリゼーションへのカウンターから生まれたのかなと思います。違う文化をもった人が、同じ空の下で生きていることはとても面白いことだと思います。お互いをリスペクトすることは、お互いのカルチャーを知ることでもあります。できるだけオープンマインドで、世界をいろんな角度で見ることが大切です。カルチャー、自然、海外の自分とは違うカルチャーを取り入れること、それが 「GLOBAL NEIGHBORHOOD」ということかもしれませんね。

 最初に日本に来たのは93年。大学を卒業してすぐでした。日本の雑誌が好きで、日本の写真家やデザイナーに興味があって、初の海外旅行で訪れたはずが、魅せられて、気づけばそのまま住みついてしまいました。日本の魅力は、過去現在未来が同時にあることです。何百年前の歴史や習慣が、いまも目に見える形で残っていて、過去からずっと脈々と繋がっているのです。

 社会の価値観や在り方が大きく変わっていくようなこれからの時代にとって、日本はとても大事な国になるはずです。人の和を作ったり、様々な人や物事をバランスよく調整したり、日本人にしかできないことが出てくると思います。

ルーカス B.B.
クリエイティブディレクター/編集人。アメリカ生まれ。カリフォルニア大学卒業後、来日。(有)ニーハイメディア・ジャパン代表として、トラベル誌『PAPERSKY』やファミリー誌『mammoth』を発行しながら、ウェブサイトやイベントプロデュースなどもおこなっている。これまでに手がけた雑誌に『TOKION』『metro min.』『PLANTED』などがある。2014年にはNTTドコモのアプリメディア『japan jikkan』を創刊。また、ファミリー向け野外フェスティバル「mammoth pow-wow」や日本再発見の旅プロジェクト「PAPERSKY tour de Nippon」のイベントプロデュース等、幅広く活動している。
www.khmj.com

NEW NAIVETY

ニュー・ナイーブティとは、自然発生的で遊び心がありながら、ときに不快さのあるビジュアルのことです。
それは、必ずしも“ブランドに当てはまる”ビジュアルでなく、風変わりだったりもします。
今こそ奇妙で野暮ったくなることを怖れず、みんなを笑わせましょう。

パム・グロスマン

ビジュアルトレンド・ディレクター

“賢い消費者は、選び抜かれたセレクトを避け、
ユルくてラフな感覚を好むようになっていて、
ビッグブランドも、この傾向を取り入れています”

Special Interview

前田 晃伸

“リアリティあるなし、ではなくて
ケータイで撮ったような写真が好きなんだと思う”

前田 晃伸

アートディレクター
グラフィックデザイナー

 6つのトレンドのどれにも言えることですが、世界が加速的に分断されていることが大きいのだと思います。少し大きな話になりますが、トランプがアメリカの大統領になるようなことが表していると私は考えています。

 「Post truth」「Alternative Facts」という言葉が表す通り、テレビや新聞で流れている大手メディアからまとめサイトまで、もう何を信じていいのかわからないし、何も信じない時代になりつつありますよね。多くの人はリアリティがあるなしや丁寧に作られた写真にも興味がなく、ケータイで撮ったような写真が好きなんだという印象があります。きっとこれが、「NEW NAIVETY」というキーワードの背景にあることだと思います。馴染みのあるデヴァイスにしっくりくる表現が正しく感じるといいますか。以降の表現として、トレンドという言葉で括るには難しい時代になってきたと感じています。

 人々にとってこれだ!と信じられる中心がなくなった時代だからこそ、SNSなどの些細なトピックにビビッドに反応したり、即時的なコミュニケーションが日々の拠り所になっているのではないでしょうか。つまりSNSが定着したことでビジュアル・コミュニケーションが大きく変わってきています。個人の欲望に近い表現を良しとしているから、それが雑誌や広告に影響していると感じています。

 この流れでは、今後の視覚表現や写真表現だけでなく芸術に関しても未来がないのではと悲観しています。今一度「写真」が世の中を切り取る力を持ちえるか問われていると思います。再び「写真」の自立し、新しい価値観を見いだしていくにはもう少し時間がかかる気がしますし、その役目は終えて新しい価値が生まれつつあるのかもしれません。「写真」が世相や感情をどう扱うかが今後の課題だと考えています。

 ただずっと写真に関してネガティブなことを語っていますが、何にでも揺り戻しはありますし、混沌とした過渡期だからこそ、やりようによっては新しい表現が生まれてくるチャンスはあるはずです。多発的に技術革新が起きている面白い時代だと感じています。 ローランドのリズムマシーンが世界を変えたように僕たちや次の世代が「写真」とそれを取り巻く環境を面白がっていくといいのかなと思っています。

前田晃伸 (まえだ・あきのぶ)
アートディレクター、グラフィックデザイナー。愛知県生まれ。デザイン事務所を経てデザインチーム「ILLDOZER」に参加。 解散後、CI、広告、カタログ、パッケージ、アパレルなど幅広く活動。現在『POPEYE』『TOO MUCH MAGAZINE』など、アートディレクションを手がけている。