2014年メキシコのイグアラ市で、アヨツィナパ教員養成大学へ通っていた学生43人が集団で行方不明となった事件は、国内だけでなく世界中にショックを与えた。麻薬組織Guerreros Unidos(ゲレロス・ウニドス)のメンバーが「全員を殺害した」と供述していたが、確定した事実のないまま、失踪から4ヶ月後に「正式に死亡」と発表された。

行方不明の学生たちの家族を追っていたブラジル人フォトグラファーのアドリアナ・ゼブラウスカスは、ある事実に驚いた。失った家族の写真を見せてほしいと尋ねると、出されたものは身分証明書や携帯で撮った写真以外になかったのだ。世界ではこれほどまでにビジュアル化が進んでいるというのに。

「愛する者の将来を奪われただけでなく、大切な思い出となる写真も残っていなかったのです」と、ゼブラウスカスは話す。

 

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(写真提供:Adriana Zehbrauskas)

そこでゼブラウスカスが思いついたのが、「Next of Kin: Family Matters(近親者:かけがえのない家族)」というプロジェクトだ。「ゲッティイメージズ・インスタグラム助成金」プログラムの支援を受けることにより、彼女は村々で小さな写真スタジオを設置し、犠牲者の家族のポートレート写真を撮影することに尽くした。そして、写真を印刷してプレゼントしただけでなく、Instagramにも投稿して、親族や友達と写真を共有できるようにもした。

「家族のポートレート写真というのは、一時の期間における文化人類学研究に値すると思っています。歴史を保存して思い出を記録することができるのが、写真ですからね」と、彼女は言う。「多くの人たちは、過去に写真を撮ってもらった経験がないのですが、意識が向けられたことで存在意義を感じることができたようです」

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世界の知られざる地域を写しだす写真家をサポートすることを目的として、2015年に初めて開催された「ゲッティイメージズ・インスタグラム助成金」プログラム。ゼブラウスカスは上位3名に選ばれ、入賞者にはそれぞれ1万米ドルが授与された。そして今年もプログラム開催が決定し、2016年3月14日から4月12日(グリニッジ標準時)まで、助成金の申し込みを受け付けている。

昨年の審査員でドキュメンタリー写真家のマギー・スティーバーは、このプログラムについて次のように語っている。「心臓の鼓動を感じさせる本当の物語と、写真を通してそれを語ろうとするフォトグラファーの真の情熱を探しています。素晴らしい作品を熱心に生み出している無名の才能を発掘することに、私はいつも喜びを感じますね」

 

今年は審査員を務めることになったゼブラウスカス。しかし、本プログラムによる経済的支援がなかったら、彼女のプロジェクトを最後までやり遂げ、訪れたコミュニティに持続的な影響を与えることは難しかったであろう。村を再訪問するゼブラウスカスは、子供用に写真ワークショップを開く予定でいる。携帯電話で写真を撮影する方法を身につければ、自分たちでコミュニティのビジュアル史を作り上げることができるようになるからだ。

「私が撮影できることはもちろん、子供たちに写真の撮り方を教える機会も与えられて、非常にやりがいを感じます」と、彼女は言う。「写真は自分のために撮っているのではなく、村の人々のためなのですから」

 

2016年度「ゲッティイメージズ・インスタグラム助成金」プログラムの詳細(英語)は、こちらをご覧ください