「危険な要素があったのは明らかでした…」

ゲッティイメージズのフォトグラファ-、クリス・トロットマンは、これまで何度もNASCAR(ナスカー)レースを撮影してきたが、これほど衝撃的なシーンに出会ったことはなかったと言う。

「スポーツ写真の撮影は、正しい撮影位置と時間、カメラの準備に全てがかかっています。撮影できる決定的な瞬間を事前に知るすべはないですからね」

米ペンシルベニア州のポコノ・レースウェイで開催されたNASCARスプリントカップシリーズで、リーダー的存在であるレーシングドライバー達のピットストップを撮影していた時に、トロットマンが捉えた下の写真は、2015年版の『Year In Focus(イヤー・イン・フォーカス)』にも収録されたほど印象的だ。2012年NASCARスプリントカップチャンピオンのブラッド・ケセロウスキーがピットストップすると聞いて、トロットマンは最前列でカメラを構えていた。

「ブラッドの車がピットボックスに猛スピードで進入してきました。そしてブレーキがロックし、ピットクルーに向かって突撃してきたのです。左フロントタイヤ交換担当のクルーが、足をひかれまいと空中をジャンプしてボンネットに着地した姿には、むしろエレガントさすら感じますよね。彼が抱えていたタイヤは、ボンネットに当たって跳ね返り、約70メートル先までピットロードを転がってしまったほどです。」

ジャッキマンも、とっさに飛び退けようとした。

「車と接触した彼は、両足ともジャッキと共に宙に舞い上がってしまいました。10キロ以上もある金属ジャッキが頭に落ちなくて、本当に良かったですよ」

ケセロウスキーは直ちに車をバックさせ、クルー達はピット作業を無事終わらせることができた。キーという音を立ててピットから出て行った彼は、ラジオ越しにクルーに謝り、マット・ケンゼスに続いて2位を獲得した。

「ラッキーなことに、怪我人は出ませんでした。ピットクルーは元スポーツ選手だった人が多く、運動神経と反射神経が抜群なのです」

「危険な要素があったのは明らかでした。タイヤから出る煙や飛び跳ねるクルー達に、誰もが驚いておののきました。しかし、それもすぐさま興奮に変わりました。すごい瞬間をタイミング良く目撃することができたのですから」

特別な瞬間をカメラに収めることができたと確信したトロットマンは、ピットを去り、エディターと共に次の撮影スポットへと向かった。来たる素晴らしい瞬間に向けて準備を進める必要があることを、彼は20年の経験から知っているのだ。

「いつ何が起こるのか分からなければ、いつでも準備ができていなければなりません。予期しないことが、瞬きをするうちに起こってしまうことだってありますから」

 

2015年のベストスポーツ写真は、『Year In Focus 2015』(iBooksからダウンロード可能)をご覧ください。